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広島高等裁判所 昭和63年(行コ)6号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

差戻前及び差戻後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は全部控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、原判決添付別紙目録記載の各土地につき昭和五五年八月一一日付でした地方税法六〇三条の二第一項の規定に基づく免除認定申請に対する否認処分(広西課第七六六号)はこれを取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正、削除するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決事実摘示中「旧建物」とあるのを「本件建物」と改め、同「本件処分」とあるのを「本件否認処分」と改める。

2  原判決二枚目裏五行目「なした」を「し、その旨を控訴人に通知した」と改める。

3  原判決一〇枚目表八行目「「されていた。」の次に「そして、控訴人は、このコンクリート舗装を残存価格一七万九八四〇円として、訴外会社から引き継いだのである。」を加え、同一〇行目「本件は」から同一一行目末尾までを「右コンクリート舗装は、法六〇三条の二第一項一号の構築物に当たり、法施行令五四条四七第一項の一、二号の基準を充足している。」と改める。

4  原判決一一枚目裏八行目の次に行をかえて「右の特定施設の解釈及び事実関係からすると、本件土地は、法六〇三条の二第一項二号の特定施設に当たり、法施行令五四条の四七第二項の一ないし三号の基準をすべて充足している。」を加える。

5  原判決一三枚目裏九行目の次に行を変えて「(6) 昭和五四年一二月二八日から昭和五五年一月二八日まで、電気は、コンデンサー用の充電及び放電による消費は認められるが、実質的な使用はされていない。」を加える。

6  原判決一七枚目表末行目の「(以下「基準日」という)」を削除する。

二  控訴人の主張

1  法六〇三条の二第一項の解釈、適用について

同項は、土地を建物又は構築物の敷地の用に供する土地(一号)と特定施設の用に供する土地(二号)とに区分して、それぞれ免除の要件を定めている。右一号について、同法施行令五四条の四七第一項は、「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと。」と「その利用が相当の期間にわたると認められること」の基準の充足を要求しているが、右二つの基準は、要するに当該土地が相当の期間にわたって真実、有効に利用されているかどうかを判断するためのものである。換言すれば、当該土地の利用の実態が相当の期間にわたって「仮装」のものでないことを、所有者の意思等を含めて総合的に判断すべきである。

そして、免除認定の基準日の現在の状況について、申告納付期限である五月三一日後特別土地保有税審議会等において客観的に総合的に検討されることになるのであるから、通例、基準日以後半年以上の観察期間が存在しうるわけであり、この観察期間を通じて所有者の土地利用の真意等を総合的に把握しなけれがならない。控訴人が果たして本件土地を遊休化させる意思を持っていたかどうかが焦点となる。

本件の場合、訴外会社は、大型及び中型のトラックの販売を事業としていた。それゆえに、訴外会社から取得した本件建物は控訴人の事業目的に適合しないため、控訴人としては、本件建物を取り壊し、新建物を建設することとなったに過ぎない。本件建物は、控訴人が取得した昭和五四年一二月二四日までは訴外会社が現に事業の用に供していた。控訴人が本件建物を昭和五五年一月一六日取壊しに着手したのは、取壊しによって本件土地は遊休化するためではなく、控訴人の本来の事業目的により適合した新建物を本件土地上に建設するためであった。事実、控訴人は、昭和五五年五月一日新建物の新築工事に着手し、同年九月二三日同工事を完成させ、同年一〇月一日から新建物を控訴人の事業の用に供した。被控訴人の主張は、これらの事実関係を総合的に把握しないで、皮相に本件建物の取壊し予定という事実のみに目を奪われて、本件土地の有効利用の実態を捨象した、きわめて正義に反する法の解釈であり、激動する現代の事業活動と土地利用の現実からあまりにも遊離した解釈であるといわなければならない。

2  本件土地は、法六〇三条の二第一項一号の建物又は構築物の敷地の用に供する土地である。

次に述べる基準日前後の事実を正しく素直に観察するならば、本件建物は法施行令五四条の四七第一項の一、二号の基準に適合する。

(一) 控訴人は、日産系の自動車の販売と修理を事業目的とする会社で、事業目的以外に土地を取得することはない。本件土地を取得したのは、営業所を作る目的であった。

(二) 本件土地には、訴外会社が大型及び中型のトラックの販売、修理に使っていた本件建物と構内舗装(コンクリート舗装)があり、控訴人は、これらの施設を使用できるかどうかを検討していたが、本件土地等を維持するため、控訴人は、一日二〇万円以上の金利を負担していた。

(三) 本件土地上の本件建物のうち、事務所と車検場を取り壊して中古車展示場を作るが、自動車修理工場二棟は増改築によって使用可能であると考えていた。また、本件コンクリート舗装部分は、そのままできるだけ利用して、中古車展示場のために利用する考えであった。

(四) 本件土地を取得したのが年末であり、年末年始の休みに入るため、控訴人は、全面的に本件建物を取り壊して建て替えるか、自動車修理工場二棟を増改築するかを、最終的に未確定のまま年を越し、昭和五五年一月一〇日の役員会を迎えた。但し、本件コンクリート舗装部分は中古車展示場の基礎として生かして使用することは確定していた。

(五) 本件建物の現況は、物理的に相当の期間にわたって控訴人の事業目的に供しうる状態にあり、本件コンクリート舗装部分も同様であった。

(六) 昭和五五年一月一〇日の役員会の決定までは、本件建物のうち自動車修理工場二棟は、単に一時的に用途に供することが停止されているに過ぎない状態とみることができる。

(七) 本件コンクリート舗装部分については、昭和五四年一二月二五日過ぎから二〇台余りの中古車を昭和五五年一月一五、六日頃まで駐車させて在庫管理していた。これは、新車の販売が年末に多く、これに伴って下取りした中古車の在庫が多くなったことによるもので、控訴人の事業目的の一環である。このようにして、控訴人は、本件コンクリート舗装部分を基準日現在において実際に使用していた。

(八) 昭和五五年一月一〇日の役員会で本件建物を全面的に建て替えることに決定した後、速やかに工事に着手し、同年二月二〇日には解体工事を完了し、同年三月一〇日には中古車展示場を開業した。

(九) 従前のコンクリート舗装はそのままアスファルト舗装の基礎として利用している。

(一〇) 同年三月一四日頃、本件土地約六〇パーセントを占める範囲において中古車センターの営業を開始した。

以上の事実からすると、本件建物が、その構造及び工法からみて仮設のものでないことは明らかであり、控訴人の利用意思が客観的、外形的になかったとはいえず、その利用が相当の期間にわたると認められることも明らかである。また、本件コンクリート舗装部分についても、その構造及び工法からみて仮設のものでなく、かつ、利用意思が客観的に存在していたことはもとより、実際にも継続的に利用されていたのであるから、その利用が相当の期間にわたると認められることは明らかである。

3  本件土地は、法六〇三条の二第一項二号の特定施設の用に供する土地である。

前記2で述べたような客観的利用状況からすると、本件コンクリート舗装部分は、本件土地と一体となって、本件建物とは別に、基準日現在及びその前後において、工事用材料の保管、中古車の在庫管理、中古車の展示、販売等の事業活動のための特定施設となっていた。そして、この特定施設の整備状況は控訴人の事業目的(中古車の展示、販売等)を達成するのに通常必要とされる程度に整備され、基準日以後年間を通じて利用されてきたし、また、アスファルト舗装をするなどその効用を維持するため通常必要とされる管理が行われていたのであるから、法施行令五四条の四七第一項の一ないし三号の基準に適合する。

三  被控訴人の主張

1  控訴人は、法六〇三条の二第一項一号、法施行令五四条の四七第一項の規定は、当該土地利用が仮装のものでないことを総合的に判断すべきであることを要求しているに過ぎず、その判断では、所有者が果たして土地を遊休化させる意思を持っていたかどうかが焦点となる旨主張する。しかしながら、法六〇三条の二第一項一号は、特別土地保有税の納税義務の免除の対象となる土地につき、「事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係わる基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地」と規定し、施行令五四条の四七第一項は、右基準として、「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと」(一号)、「その利用が相当の期間にわたると認められること」(二号)と規定しているのみである。このように外形的かつ具体的に免除要件が定められているのは、そもそも、土地が未利用地であるか、あるいは有効利用されているかの認定は、人それぞれによって、また立場によって異なるので、画一的かつ公平な取り扱いをするための課税技術上の要請が考慮されたことにほかならないのであるから、ことさら仮装なる概念を用いる必要はないし、またその余地もない。また、免除の認定に当たって当該土地を遊休化させる意思の有無などは問わないものである。

2  法施行令五四条の四七第一項二号の基準について

地方税法の主管官庁である自治省は、同号の基準について、通達において、「その利用が相当の期間にわたるか否かの認定にあたっては、所有者の利用意思、所有者の建物又は構築物の具体的な利用状況等を総合的に勘案して判定すべきものである。」という解釈を示している。しかして、具体的事例に対する解釈適用につき、基準日において一時的に建物としての利用が停止されているに過ぎない場合は、二号の基準に適合するが、「取得者が建物の取壊しを予定している場合や、第三者に引き継ぐ意図もなく放置し、何らの維持管理もしていない場合は免除対象とはならない。」とされている。自治省の右解釈は、本件納税義務免除制度の趣旨からみて、妥当、適切であり、上告審判決の解釈と一致するものである。

3  当審においては、上告審判決の判示した二号の基準の解釈に従って審理、判断されるべきものであるので、基準日前後における控訴人の利用意思、本件建物等の利用状況について、以下のとおり主張する。

(一) 基準日前後における控訴人の利用意思

基準日である昭和五五年一月一日において、本件建物を利用する意思がなかったことは次の事実によって明らかである。

(1) 控訴人は、本件土地建物の引渡しを受けた昭和五四年一二月二五日当時すでに本件建物全部を取り壊すことを決定しており、引渡し直後にフジタ工業株式会社に解体工事の見積りをするように注文していた。そして、同年一二月二八日付けでフジタ工業から見積書が提出された。

(2) 控訴人は、昭和五四年四月頃から広島市の担当者と現在建てられている新しい建物について協議を進めていた(原判決事実摘示の被控訴人主張欄1(二)(3))。控訴人としては、同年九月時点で資金関係の手当てもついており、早く工事に取りかかりたかったが、訴外会社の移転が遅れたため、本件土地建物の引渡しが遅れた。

(二) 基準日前後における本件建物等の利用状況

原判決事実摘示(被控訴人の主張欄1(二)(1)ないし(6))のとおりである。電気、上水道、電話は、本件建物を営業用として使用するためには不可欠のものであるが、昭和五五年一月一日の基準日前からいずれも使用されておらず、取壊し工事が完了した同年二月二〇日までその状態が継続したということは、基準日現在において本件建物が利用されていなかったことにあわせて、前記(一)の利用意思がなかったことを示すものである。

4  本件土地が法六〇三条の二第一項二号の特定施設に当たるとの控訴人の主張について

(一) 法六〇三条の二第一項は、土地を建物又は構築物の敷地の用に供する土地(一号)と特定施設の用に供する土地(二号)とに区別して、それぞれ免除の要件を規定している。しかして、一号末尾には「(次号に該当するものを除く。)」と規定しているのであるから、裁判所の審理にあたっては、本件土地が一号、二号のいずれに該当するかを認定したうえで、免除要件の有無を判断しなければならない。

差戻を受けた裁判所は、上告裁判所が破棄の理由となしたる事実上及び法律上の判断にき束されるのであるところ、本件土地が一号、二号のどちらに該当するかは事実上の判断であり、免除要件を定めた法六〇三条の二第一項一号、法施行令五四条の四七第一項二号の規定の解釈は法律上の問題であるから、差戻後の控訴審は、上告審判決の説示に従わなければならないものである。上告審判決、旧控訴審判決、一審判決は、ともに本件土地全部を建物敷地であって、特定施設ではないと認定したうえ、本件建物について免除要件該当性の有無を審理、判断しているのであるから、差戻後の控訴審は、上告審判決に拘束されるものであることに鑑み、控訴人の本件土地の全部又は一部が特定施設用地であるとの主張は失当である。

(二) なお、本件土地又は一部が特定施設用地に当たるとの控訴人の主張に対して、次のとおり反論する。

本件土地の全部又は一部(控訴人の商品である自動車陳列のための駐車場として使用されるコンクリート舗装部分)が特定施設であると認定されるためには、法施行令五四条の四七第二項所定の要件を備えることが必要であるところ、右各要件を欠くものであるから、この点からみても控訴人の主張は失当である。

(1) 同項一号の意義につき、内簡は、工場施設等の特定施設内の空地を駐車場として利用している場合は、特別の工作物が設けられていない場合でも、継続的に利用され、その利用の程度につき、ピーク時における駐車台数が収容定数のおおむね五割以上であるとの水準に達すると認められるときは、当該特定施設の一部として特別土地保有税免除の対象とすべきであるという解釈を示している。しかしながら、本件においては、控訴人は、本件土地に昭和五五年一月一日以降二〇日足らずの間一〇〇平方メートル当たり一台程度の中古車を置いたに過ぎないのであって、駐車場の通常の整備、管理がなされていなかったものであるから、一号の要件はもちろん、三号の要件も欠くものである。

(2) 「その利用が相当の期間にわたると認められること」(二号)は、当該土地に存する建物に係る法施行令五四条の四七第一項二号と同文の規定であるから、同号の解釈につき上告審判決で判示する解釈が適用されるべきである。

本件土地のうち本件コンクリート舗装部分の昭和五五年一月一日現在の使用状況は前記のとおりであり、さらに自動車置場として使用されたのは、昭和五五年三月一〇日過ぎからとりあえず中古車センターを開業し、本格的に使用開始したのは同年一〇月一〇日からであった。この間、昭和五四年一二月二四日以降右各期日までの間にコンクリート舗装の上にアスファルト舗装が施され、同年三月一〇日過ぎ以降自動車置場としての効用を発揮しているのは上部のアスファルト舗装であって、元のコンクリート舗装は駐車場としての用途が廃止され、アスファルト舗装の下積みとして使用されている。これらの事実からすると、基準日現在における控訴人の利用意思は、コンクリート舗装部分をアスファルト舗装部分の下積みとして利用することにあり、駐車場として利用する意思は全くなかったことが明らかである。したがって、右二号の要件を欠くことは明らかである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  控訴人が被控訴人に対して、昭和五五年五月三〇日、地方税法(昭和五七年法律第一〇号による改正前のもの。以下「法」という。)六〇三条の二第一項の特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請したこと、被控訴人が、同年八月一一日右認定をしない旨の決定(以下「本件否認処分」という。)をし、その旨を控訴人に通知したこと、本件否認処分の理由は、免除認定の基準日(昭和五五年一月一日)を中心とした本件土地上の建物の利用状況が控訴人において右建物を取得してからこれを積極的に利用しようとした形跡が見られないこと及び右基準日の直後である同月一六日から控訴人が右建物の取壊し工事に着手していることにより、「その利用が相当の期間にわたると認められること」とする免除認定基準に適合しないというものであったこと、控訴人が、昭和五五年九月二〇日広島市長に対し本件否認処分の審査請求をしたところ、広島市長が、同年一一月二〇日審査請求を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。

二  控訴人は、本件否認処分が違法であると主張するので、この点について判断する。

1  まず、本件否認処分に至るまでの経緯について判断する。〈証拠〉によれば次のとおり認められる。

(一)  訴外山陽日産ディーゼル株式会社(以下「訴外会社」という。)は、大型及び中型トラックの販売会社であるが、本社、営業所として、広島市西区に原判決添付別紙目録記載の土地(合計三四〇四・五三平方メートル。以下「本件土地」という。)及びその上に存する社屋、工場、作業場等の建物(昭和三八年一〇月建築。床面積合計二〇〇〇平方メートル。以下「本件建物」という。)を所有し、使用していた。

(二)  控訴人は、小型乗用車及び大衆乗用車の販売修理会社であるが、広島市西区三篠町三丁目に一八〇〇平方メートル余の土地を所有し、同所に本社、営業所を設けて営業を行っていた。

(三)  控訴人は、西営業所及び中古車センターを開設する必要上、昭和五四年九月一〇日訴外会社から本件土地建物を代金五億五〇〇〇万円で買い受け、右代金を完済したうえ、同年一二月二四日所有権移転登記を経由し、同月二五日その引渡しを受けた。

(四)  右売買契約後、訴外会社は、順次本件土地からの移転作業を行い、昭和五四年一二月一五日には最終的に移転を完了し、前記のとおり控訴人への本件土地建物の引渡しを終えた。

(五)  本件土地建物について、控訴人は、本件建物の一部を改築して利用する方法と本件建物を全面的に取り壊して建物を建て直す方法とを検討したが、最終的に、昭和五五年一月一〇日頃、本件建物を全部収去し、本件土地の西側一三〇〇平方メートル余の部分に事務所及びサービス工場を建築しその余の部分を中古車展示場として使用する方針を決定した。

(六)  そこで、控訴人は、同年一月一六日本件建物の解体工事に着手し、同年二月二〇日頃これを完了した。そして、控訴人は、本件土地の東側約二〇〇〇平方メートルの部分をアスファルト舗装し、同年三月一〇日過ぎからとりあえず右部分で中古車センターを開業し、更に、同年五月には本件土地の西側部分において営業所及び自動車修理工場(鉄骨造二階建建物。建築面積七六八平方メートル。)の建築に着手し、同年九月二三日これを完成させたうえ、同年一〇月一日ここに西営業所を開設した。

(七)控訴人は、本件土地を買い受けたため、従前の所有土地と併せると、昭和五五年一月一日の基準日において広島市西区内に基準面積五〇〇〇平方メートル以上の土地を有することとなり、その結果、特別土地保有税の免税点を超えることとなった。そこで、前記のとおり、控訴人は、法六〇三条の二第一項の特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請し、これに対し、被控訴人は、本件否認処分をした。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

2  控訴人は、まず、本件否認処分は、本件土地が法六〇三条の二第一項一号の建物の敷地の用に供する土地として免除認定の要件を具備する旨主張するので、この点について判断する。

(一)  法六〇三条の二第一項は、特別土地保有税の納税義務の免除の前提として、市町村長が同項各号に掲げる土地のいずれかに該当する旨の認定をすることを必要としているところ、同項一号は当該土地に存する建物等が「恒久的な利用に供される」ものとして政令で定める基準に適合することを要件とし、法施行令五四条の四七第一項一号は「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと。」(以下「一号の基準」という。)として、同項二号は「その利用が相当の期間にわたると認められること。」(以下「二号の基準」という。)として、それぞれその基準を定めている。また、法六〇三条二第五項、第五八六条四項は、右の認定が法五九九条一項の規定より特別土地保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日(基準日)の現況によるものとしている。

しかして、市町村長が右の各号の基準に適合するかどうかを認定するにあたっては、基準日現在の事実(現況)に基づいてその認定を行うべきであるが、基準日の前後における事実であっても、それが基準日現在の事実(現況)を推認させる補助的な事実であれば、その限度でこれを斟酌することができるし、また、斟酌することを必要とする。とりわけ、二号の基準に適合するかどうかは、基準日現在の事実(現況)のみではこれを判断することが困難であるから、この場合には、所有者の利用意思、当該建物等の具体的な利用状況等基準日の前後における事実を総合的に考慮して認定しなければならないというべきである。

これを本件についてみるに、まず、本件建物は昭和三八年一〇月建築の床面積合計約二〇〇〇平方メートルの建物であるから、仮設のものでないことは明らかであり、基準日(昭和五五年一月一日)において、一号の基準に適合するものといわなければならない。

次に、本件建物が基準日において二号の基準に適合するかどうかについて検討するに、前記認定事実及び〈証拠〉によれば、次のとおり認められる。

(1) 控訴人が本件建物の所有権を取得した昭和五四年一二月二四日以後、その取壊し工事に着手するまでの間において、控訴人が本件建物を現実に利用した形跡がなかった。

(2) 本件建物の解体工事の見積書は、昭和五四年一二月二八日付けで、控訴人から見積りの依頼を受けたフジタ工業株式会社広島支店によって控訴人に提出された。同見積書では、工期を、昭和五五年一月一六日の着工の日から四〇日間とされていた。そして、昭和五五年一月一六日、控訴人は、フジタ工業との間で、右見積りどおりの内容で本件建物の解体工事の請負契約を締結し、前記のとおり同日直ちに取壊し工事が着手され、同年二月二五日には右取壊しが完了した。

(3) 控訴人は、本件土地を取得する以前の昭和五四年四月から、本件土地上に建物を新築することについて広島市担当課と協議を進め、また、昭和五四年九月中旬頃から、新しいサービス工場に設置予定のコンプレッサーの騒音や油水分離機による排水などの問題について、付近の住民に対し建設のための同意を求めていた。

(4) 本件土地内には、昭和五四年一二月一八日から昭和五五年三月一一日まで、臨時電話も含めて電話は架設されていなかった。

(5) 本件土地内において昭和五四年一二月二五日から昭和五五年二月二七日まで、上水道は使用されていなかった。

(6) 昭和五四年一二月二八日から昭和五五年一月二八日まで、電気は、コンデンサーの充電及び放電による消費は認められたが、実質的な使用はされていなかった。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、昭和五五年一月一日の基準日において、本件建物の取壊しが予定されており、控訴人は、本件建物を利用する意思はなく、実際にも利用しておらず、その前後においても、本件建物の利用に必要不可欠な上水道、電話、電気も使用されておらず、基準日の約半月後には本件建物の解体工事に着手し、その後これを完了しているのであるから、本件建物は、二号の基準に適合しないものといわなければならない。

(二)  控訴人は、法六〇三条の二第一項一号、法施行令五四条の四七第一項の規定は、当該土地の利用が仮装のものでないことを総合的に判断することを要求しているものであり、その判断では当該土地を遊休化させる意思の有無が焦点となる旨主張する。しかしながら、特別土地保有税の免除の対象となるための要件は先に述べたところであって、仮装などという概念を用いる余地はなく、また、免除の認定は、建物等の現況に基づいて行うものであり、当該土地を遊休化させる意思の有無は何ら問わないものである。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

(三)  控訴人は、本件建物の取壊し後まもなく新建物が本件土地上に建築されたことから、基準日の後に建築された新建物も基準日現在存在していた本件建物と価値的に同一性があるため新建物の利用状況をも考慮して、一号、二号の基準に適合するかどうか判断すべきであると主張する。

しかしながら、免除の対象土地の認定は、法六〇三条の二第一項一号の規定から明らかなように当該土地に存する建物等によって行われるものであり、しかも一号、二号の各基準に適合するかどうかの認定は基準日現在の事実(現況)に基づいて行うべきものである以上、当該土地上に存する建物等も基準日現在の存するところのものでなければならず、基準日の後に新築される建物等であってはならないことは明らかである。本件においては、基準日には本件建物が存在し、新建物は存在せず、着工もされていなかったのであるから、控訴人の右主張は採用できない。

(四)  また、控訴人は、本件の場合は、建物の利用が増改築等により一時的に停止されている場合と同様に判断すべきであると主張するが、新築は、建物の物理的同一性の存する増改築と異なり、新旧両建物の間にその同一性が認められないのであるから、増改築等の場合と同一に扱うことはできない。

(五)  また、控訴人は、基準日現在の一時的な現況のみによって免除の認定をすべきでなく、基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきであり、その一定の期間は、基準日である一月一日から半年以上の期間又は特別土地保有税(保有分)の申告納付期限である五月三一日までの期間をいうと解すべきであるから、被控訴人は、右期間の土地利用状況を勘案して免除の認定を行うべきであると主張する。

〈証拠〉によれば、通達において、特別土地保有税の納税義務の免除の認定を行うにあたっては、基準日現在の一時的な現況のみによって免除の認定をすべきでなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきものとされているが、この通達は、基準日現在の現況を明らかにするためにはその前後の土地の利用状況を勘案せよというもので、あくまでも基準日現在の現況の把握に正確を期するという趣旨に出ずるものであるから、基準日現在の現況の把握に必要な期間であれば足りるというべきである。控訴人が拠り所としている申告納付期限は、本税の税額計算など課税上の都合を考慮して定められたものであり、納税義務免除制度における基準日の取り扱い上の一定の期間とは、何らの関連性を有しない。したがって、本件の免除認定を行うにあたって、基準日以後半年以上の期間ないし申告納付期限である昭和五五年五月三一日までの期間の土地利用状況を斟酌しなければならない理由はなく、控訴人の右主張は採用できない。

3  控訴人は、本件土地が法六〇三条の二第一項一号に規定する構築物の敷地の用に供する土地であると主張するので、この点について判断する。

前記1の認定事実及び〈証拠〉によれば、次のとおり認められる。

(一)  本件土地はほぼ正方形の形状の土地であって、その南側部分に鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の社屋が建築されていたほか、北側部分に鉄骨造スレート葺平家建の工場、西側部分に同建物と接続して鉄骨造スレート葺平家一部二階建の工場があり、東側の南寄りに鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建の作業場(車検場)があって、その余の空地部分はコンクリート舗装されていた。

(二)  基準日現在、本件土地は、訴外会社から取得したままの状態であり、本件建物自体は、事務所、修理工場、作業場(車検場)としての用途に供される状態にあり、右空地部分は、洗車場、油庫等の付属設備が設けられていたほか、納車前の車、修理を待つ車、修理の完了した車等の車輌置場として使用される状態にあった。

(三)  本件土地の面積は合計三四〇四・五三平方メートルであるが、そのうち本件建物の敷地面積(一階の床面積)は、社屋五〇四・四六平方メートル、工場七六九・九〇平方メートル、作業場一〇二・〇六平方メートル、合計一三七六・四二平方メートルであり、その余がコンクリート舗装の空地であった。

(四)  本件土地が所在する地域は、都市計画法上の住居地域であり、建ぺい率が六〇パーセント以下と定められている。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件コンクリート舗装部分は、本件建物の利用と密接不可分の関係において利用されるものであって、本件建物を利用する場合の付属施設とみるべきであり、本件土地上に占める建物の建築面積の割合を併せ考えると、本件土地は、全体として、本件建物の敷地の用に供する土地と認めるのが相当である。したがって、本件コンクリート舗装部分は、法六〇三条の二第一項一号の構築物(コンクリート舗装)の敷地の用に供する土地に当たらないものというべきである。

なお、所得税法及び法人税法(減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号))上、コンクリート舗装空地が構築物として扱われるとしても、これは資産としての観点から構築物とされるのであって、特別土地保有税の免除認定においては、これを土地利用状況の観点から判断すべきものであるから、本件コンクリート舗装部分を特別土地保有税免除の可否の認定にあたり独立の構築物としてでなく、本件建物の付属施設として扱うことは、何ら右省令と矛盾するものではない。

4  控訴人は、本件コンクリート舗装部分を昭和五四年一二月二五日過ぎから昭和五五年一月一五、六日頃までの間二〇台余りの中古車を駐車させて在庫管理していた事実等を根拠に、本件土地ないし本件コンクリート舗装部分が法六〇三条の二第一項二号に規定する特定施設の用に供する土地に当たる旨主張する。

〈証拠〉中には右主張事実に沿う供述ないし記載部分があるが、〈証拠〉によれば、控訴人の西迫光博経理課長は、被控訴人の特別土地保有税の申告に関する通知文書を受けて、昭和五五年五月、広島市西区役所を訪れ、合計三回にわたり申告相談をしたが、その相談において、本件コンクリート舗装部分を基準日現在利用していたと述べた事実はないこと、被控訴人の担当者が近隣の居住者から聴取した調査結果でも、何十台もの自動車が本件コンクリート舗装部分に駐車していた事実はないとの回答を得ていること、昭和五五年一〇月九日に実施された、控訴人の菅原杢良総務部長及び代理人讃岐義太郎税理士の審査請求に対する審尋においても、昭和五五年の正月明けから何台かの車輌を本件土地に持ち込んで置いていた程度であると述べていることが認められ、これらの事実に照らすと、前記各供述部分及び記載部分は採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも、〈証拠〉によれば、控訴人が昭和五五年の正月明けから同年一月一五、六日頃までの間何台かの中古車を駐車させていたことが認められるが、この事実をもって、基準日現在、本件土地ないし本件コンクリート舗装部分が、本件建物の敷地としての利用だけでなく、中古車の在庫管理の事業活動のためこれに関連する他の用途に利用され、本件建物と一体となって一定の効用を果たしていたと認めることもできない。

また、本件コンクリート舗装部分は本件建物の付属施設であり、本件建物の用途等は前記認定のとおりであるから、本件土地が駐車場の利用を主たる目的とする特定施設の用に供する土地に当たるということはできないし、本件コンクリート舗装部分が本件建物と別個に独立して駐車場としての特定施設に当たるということもできない。

なお、仮に本件土地が本件建物と一体となって一定の効用を果たす特定施設の用に供する土地に当たるとしても、本件建物と本件コンクリート舗装部分の利用関係、本件建物の建築面積の割合等からして、本件建物がその特定施設の主たる構成要素となっているとみるべきである。しかして、特定施設のある土地に対する特別土地保有税の納税義務免除の前提として、法施行令五四条の四七第二項二号は「その利用が相当の期間にわたるものと認められること。」の基準を定めており、その基準に適合するかどうかの認定にあたっては、基準日現在の現況のほか、所有者の利用意思、当該特定施設の利用状況等基準日前後における事実を総合して認定されなければならないところ、基準日現在、特定施設の主たる構成要素である本件建物は、その取壊しが予定されており、控訴人において本件建物を利用する意思はなく、実際にも利用されておらず、本件建物の前後に利用状況や本件コンクリート舗装部分の利用状況は前記認定のとおりであるから、右にいう特定施設は、右二号の基準に適合しないというべきである。

したがって、控訴人の右主張は採用できない。

三  以上の次第であるから、本件否認処分には違法はなく、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について行訴法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下郡山信夫 裁判官 池田克俊 裁判官 高木積夫は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 下郡山信夫)

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